福岡城石垣の「算木積」と現在建築のデザイン

福岡城の天守台石垣の「算木積」

福岡市中央区の舞鶴公園を歩いていると、豪壮な石垣が幾重にも連なる光景に圧倒されます。特に本丸天守台の石垣は、その技術の精緻さと美しさで訪れる人々を魅了していると思います。なかでも注目すべきは、石垣の角部分に見られる「算木積」という独特の積み方です。画像のように戦国時代の算木積と現代建築のレンガ積みが対比されていますが、両者には興味深い共通点が見て取れると考えています。

算木積とは何か

算木積(さんぎづみ)は、日本の城郭建築における石垣技術の到達点とも言える工法です。石垣の最も重要な部分である「隅角部」に用いられる特殊な積み方で、長方形に加工された石材の長辺と短辺を交互に積み上げていく技法です。

その名称の由来は、中国数学や和算で使用された計算用具「算木」にあります。算木は長方形の棒状をした道具で、縦や横に置くことで数字を表現していました。石垣の隅石の形状がこの算木に似ていることから「算木積」と呼ばれるようになったのです。

一般的な算木積では、石材の長辺が短辺の2~3倍程度の大きさに整形されます。そして最も重要なのが「隅脇石」(すみわきいし)と呼ばれる石の存在です。短辺の隣に配置されるこの隅脇石を、上下の長辺で挟み込むことにより、隅角部が一体化して極めて高い強度を実現します。これにより石垣全体の安定性が格段に向上するのです。

福岡城の算木積の歴史的背景

福岡城は関ヶ原の戦い(1600年)での戦功により、筑前52万石を拝領した黒田長政が慶長6年(1601年)から7年の歳月をかけて築城しました。築城に当たっては、父である黒田官兵衛(如水)の豊富な築城経験と知識が活かされたと考えています。官兵衛は加藤清正、藤堂高虎と並ぶ築城の名手として知られ、大坂城や姫路城の築城にも関わった人物です。

福岡城の石垣は大きく三種類に分類されます。まず、築城初期に用いられた「野面積み」(のづらづみ)で、自然石をそのまま積み上げた工法です。天守台を中心とした城の南側に多く見られ、礫岩、玄武岩、花崗岩などが使用されています。

次に「割石積み」(わりいしづみ)と呼ばれる工法があります。野面積みよりも加工度が上がり、石垣の勾配はより急峻で高さも増しています。石材には矢穴(やあな)と呼ばれる割跡が残っており、主に花崗岩が使用されています。城の北側を中心に見ることができます。

そして第三が、石垣の角部分に用いられる「算木積み」です。直方体に加工された石を交互に積み上げる技法で、これにより石垣全体の強度が格段にアップします。

福岡城の算木積は、関ヶ原の戦い後の築城ラッシュ期に完成された技術の結晶だと思います。この時期は徳川幕府による天下普請が行われ、全国の諸大名が石垣技術を習得し、瞬く間に各地に普及していきました。福岡城の算木積は、慶長10年(1605年)前後に完成されたとされる完成形の算木積の好例と言えるでしょう。

現代建築に見る算木積のデザイン的影響

興味深いことに、算木積の美的特徴は現代建築にも影響を与えていると思います。画像右側に示された現代の建物は、レンガを用いて算木積のパターンを模したデザインを採用しています。建物の角部分で、縦横交互に配置されたレンガの配列は、まさに算木積の意匠を現代的に解釈したものと言えるでしょう。

このような現代建築における算木積モチーフの採用は、単なる装飾的な目的だけでなく、構造的な意味も持っていると考えています。角部分の強度を高めるという算木積の本来の機能を、現代の建築技術と組み合わせることで、機能性と美観の両立を図っているのです。

特に日本の現代建築では、伝統的な建築技法のエッセンスを取り入れたデザインが多く見られます。算木積のような規則的で幾何学的なパターンは、モダニズム建築の美学とも調和しやすく、和洋折衷の建築デザインにおいて重要な要素となっていると思います。

私が1977年生まれの就職氷河期世代として、バブル崩壊後の1990年代から2000年代にかけて社会に出た経験を振り返ると、この時期は日本建築界においても転換点だったと考えています。経済的制約の中で、より合理的で機能的な建築が求められる一方、日本独自のアイデンティティを模索する動きも見られました。その中で、算木積のような伝統的技法の現代的解釈は、一つの解答として注目されていたと思います。

最後のコメント

福岡城を訪れるたびに感じるのは、400年以上前の築城技術の精緻さと美しさです。算木積という一つの技法を通して見えてくるのは、先人たちの知恵と技術の蓄積、そしてそれが現代にまで受け継がれている文化の連続性だと思います。

現代の私たちが直面する建築的課題も、基本的には同じだと考えています。いかに美しく、機能的で、長持ちする構造物を作るかということです。算木積が示す「強度と美観の両立」という理念は、まさに現代建築が目指すべき方向性を示していると思います。

福岡城の石垣を見上げながら、戦国時代から江戸時代にかけての技術革新の歩みに思いを馳せます。そして現代の街並みに点在する算木積モチーフの建物を見つけたとき、過去と現在がつながっている実感を得ます。これこそが、歴史ある都市で暮らすことの醍醐味なのかもしれないと考えています。

次回福岡城を訪れる際は、ぜひ天守台の算木積をじっくりと観察してほしいと思います。その精緻な石組みの中に、日本建築技術の粋と、現代にまで続く美意識の源流を見出すことができると思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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