【2025年最新】福岡市オフィス供給過剰は本当?天神ビッグバン・博多コネクティッドとTSMC効果で読み解く不動産市場の真実

福岡市内では現在、天神ビッグバンと博多コネクティッドという2つの大規模再開発プロジェクトが同時進行しています。容積率の引き上げによってビルの高層化が可能となり、延べ床面積が大幅に増大する一方で、供給過剰による空室率上昇への懸念も指摘されています。本記事では、これらの再開発の現状と将来性について、データに基づいて分析します。記事執筆時に作成した各種外部情報のURLは末尾に記載しています。

1. 天神ビッグバンと博多コネクティッドの概要

天神ビッグバンプロジェクトの進展

天神ビッグバンは2015年から開始された福岡市最大の都市再開発事業です。国家戦略特区指定による航空法の高さ制限緩和を契機として、天神交差点から半径約500メートルのエリアで建物の建て替えが促進されています。

2025年9月現在、建築確認申請数は93棟に達しており、当初目標の30棟を大幅に上回る成果を示しています。2025年に竣工した主要ビルには、天神ブリッククロス、天神住友生命FJビジネスセンター、ワンフクオカビルディングなどがあります。

博多コネクティッドの推進状況

博多コネクティッドは2019年に本格始動した、博多駅周辺の再活性化プロジェクトです。2025年9月現在、建築確認申請数は32棟となっており、天神エリアに比べて規模は小さいものの、着実に進展しています。

2025年6月に竣工した「博多駅前三丁目プロジェクト」は環境配慮型オフィスビルとして注目されており、博多コネクティッドボーナスの認定を受けています。

2. オフィス市場の現状分析

空室率の推移と現状

福岡市のオフィス市場について、複数の調査機関のデータを確認すると興味深い傾向が見えてきます。

2025年9月時点で、福岡ビジネス地区の平均空室率は5.13%となっています。2025年7月の主要大型ビルの空室率は5.31%という数値も報告されており、概ね5%台前半で推移していると考えられます。

供給過剰への懸念

しかし、今後の大量供給を考慮すると、状況は楽観視できません。民間予測では、2026年に大規模オフィスの空室率が9.8%へと急上昇するとの見通しが示されています。これは、供給過剰の目安とされる5%を大幅に上回る水準です。

ニッセイ基礎研究所の分析では、今後3年間(2024年~2026年)の総ストック量に対する供給割合は主要地方都市の中で最も高い水準になると予測されています。

賃料動向の見通し

福岡のオフィス成約賃料は空室率の上昇に伴い下落基調で推移する見通しで、2023年の賃料を100とした場合、2024年は「98」、2028年は「91」への下落が予測されています。ただし、ピーク対比で▲9%下落するものの、2018年の賃料水準と同程度であり、大幅な賃料下落には至らない見通しとのことです。

3. 他地域の事例から見る教訓

渋谷サクラステージの現状

供給過剰の懸念を考える上で参考になるのが、2024年7月に全面開業した渋谷サクラステージの状況です。開業から1年で累計来館者3,000万人を突破し、月間約300万人という当初想定を上回るパフォーマンスを記録しました。

オフィス部分の入居率は高く、2024年6月末時点で空室率は3.7%と都心の大型ビルとしては良好な水準である一方、商業施設部分は開業直後から「ガラガラ」と評され、低層の商業エリアや飲食店街は閑散とした状況が続いています。

この事例は、オフィス需要と商業需要が必ずしも連動しないことを示しており、福岡市においても用途別の需給バランスを慎重に見極める必要があると考えられます。

4. 福岡市の成長要因と将来性

熊本TSMC工場が福岡市に創出する経済波及効果

福岡市の将来的なオフィス需要を支える最も重要な要因として、熊本県のTSMC工場稼働による経済波及効果が挙げられます。直線距離約100kmという地理的関係性の中で、製造拠点としての熊本と研究開発・統括機能拠点としての福岡という戦略的な機能分散が実現されています。

TSMCを起点とした九州全体の経済波及効果は23兆300億円と試算されており、84社が6兆円超の新規投資を九州で公表しています。この中で福岡市が選ばれる理由は明確で、アムコー・テクノロジー(世界第2位の後工程企業)が福岡市内に国内初のR&Dセンターを設立するなど、研究開発機能の集積が進んでいます。

福岡空港の22路線・33社という国際線ネットワークと、台北まで1時間25分というアジア最短距離のアクセスにより、台湾系企業の日本進出拠点として福岡市が戦略的に選択されています。2025年には台湾経済部が福岡市内に「台湾貿易投資センター」を開設予定で、台湾華語⇔日本語の通訳・翻訳需要の急増など、専門サービス業への多層的な波及効果も創出されています。

九州大学との産学連携による人材育成エコシステム

九州大学がTSMCと2024年4月に締結した包括連携覚書により、アジア太平洋地域における半導体人材育成の中核拠点としての地位を確立しつつあります。価値創造型半導体人材育成センターを通じて「半導体トップ人材の3分の1を九州大学から輩出」という目標の下、実習シリーズ、国際連携プログラム、MIT留学プログラムなど多層的な人材育成体制を構築しています。

半導体技術者の平均年収688.2万円(全国平均461万円)という高い給与水準と、台湾から数百人規模の技術者移住により、福岡市の人材市場に給与水準の底上げ効果と国際的な研究開発環境の形成が進んでいます。

アジア・ゲートウェイ機能と制度的優位性

福岡市は2024年6月に政府から「金融・資産運用特区」の指定を受け、国家戦略特区としてのスタートアップビザ、法人減税、規制緩和措置と合わせて、外資系企業にとって最も参入しやすい日本の拠点として機能しています。

2024年12月には半導体関連エンジニアにもエンジニアビザ制度が拡充され、審査期間の1ヶ月短縮により国際的な人材獲得競争において優位性が強化されました。東京や大阪の企業もBCP対策で福岡市内に拠点を開設するケースが増える一方、地元企業も人材採用で本社機能を福岡市都心部へ移転させる事例が目立っています。

5. 供給過剰リスクの検証

数量的な供給増加の実態

三井住友信託銀行の調査によると、福岡市では2024年に2万4,776坪、2025年に1万9,574坪、2026年に2万7,255坪の新規供給が想定されています。3年間の累計で約7万1,605坪の大量供給となり、これは確かに市場に大きなインパクトを与えると考えられます。

需要創造の可能性

しかし、単純な需給バランスだけでは語れない側面もあります。【賃貸可能なオフィス面積】×【オフィス成約賃料】の積を【オフィス市場価値】として考えた場合、2024年と2026年のオフィス市場価値は、共に2023年を規模的に上回る試算となっています。

これは、多少の賃料下落があっても、全体的な市場規模の拡大により経済効果が期待できることを示していると思っています。

質的向上と双極構造による差別化

新規供給されるオフィスビルは、従来のビルと比較して格段に設備・機能が向上しています。フリーアドレスの導入をはじめ、リモート会議用ブース・個室の充実など、福岡市内でもテレワークを取り入れたフレキシブルな働き方に対応したオフィスが増加しており、単純な面積による比較では測れない付加価値があると考えられます。

重要なのは、製造拠点としての熊本と頭脳機能拠点としての福岡の戦略的分離という新しい産業立地モデルによる差別化です。研究開発ハブ、国際ビジネス拠点、人材育成センター、専門サービス集積地として多面的な価値創造機能を担う福岡市は、他の地方都市とは異なる競争優位性を獲得していると思っています。

6. 供給過剰懸念への対応策

段階的な竣工による調整

幸い、天神ビッグバンと博多コネクティッドの建設は2026年までの期間に分散されており、一度に大量の供給が市場に投入される事態は避けられています。この期間分散により、需要の動向を見ながら調整が可能だと思っています。

用途の多様化

新規ビルは単純なオフィスビルではなく、商業・住宅・ホテル・医療・子育て支援などの複合機能を持っています。これにより、オフィス需要だけに依存しないリスク分散が図られていると考えられます。

7. 結論と今後の展望

短期的な調整局面は避けられない

データを総合的に分析すると、2025年から2027年頃にかけて福岡市のオフィス市場は一時的な調整局面を迎える可能性が高いと考えています。空室率の一時的な上昇や賃料の軟化は避けられないでしょう。

中長期的には持続的成長軌道への復帰が期待

しかし、30年には入居が進み、供給過剰の目安(5%)を下回るとの予測もあり、熊本TSMC工場を起点とした九州全体23兆円の経済波及効果と台湾系企業の戦略的立地、研究開発機能の集積を考慮すると、中長期的には健全な成長軌道に戻ると思っています。

福岡市は「新生シリコンアイランド九州」において、アジア向けビジネスハブとしての独自ポジションを確立しており、製造拠点としての熊本と国際ビジネス拠点としての福岡の機能分担が明確化しています。この双極構造は、東京一極集中とは異なる分散型イノベーション・エコシステムとして、持続可能な成長モデルを提示していると考えられます。

質的転換の重要性

重要なのは、単純な量的拡大から質的向上への転換です。最新の設備を備えたオフィスビルの集積により、博多エリアは企業にとっても魅力的なビジネス拠点として、競争力をさらに高めている状況は、福岡市全体の都市競争力向上に寄与すると考えられます。

渋谷サクラステージの例からも分かるように、オフィス部分は比較的好調な一方で商業部分に課題があるケースもあります。福岡市においても、各プロジェクトの用途バランスや立地特性を慎重に検討し、真に需要のある機能に特化していくことが重要だと思っています。

天神ビッグバンと博多コネクティッドは確かに大規模なプロジェクトであり、短期的な需給調整は避けられません。しかし、九州経済の中心地として、そして**「新生シリコンアイランド九州」におけるアジア向けビジネスハブ**として、福岡市の将来性は十分に期待できると考えています。製造拠点としての熊本と頭脳機能拠点としての福岡による双極構造は、グローバルな半導体エコシステムにおける重要な結節点として、持続可能な成長軌道を描く基盤になると思っています。重要なのは、一時的な調整局面を乗り越えて、この新しい産業立地モデルの価値を最大化することではないでしょうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考・引用リンク

福岡市公式情報

不動産市場データ・分析

TSMC・半導体産業関連

企業進出・開発状況

制度・特区関連

渋谷サクラステージ参考情報

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