「時代が違う」という言い訳は通用しない – パナソニック経営陣の硬直

パナソニックの1万人リストラ発表に対して、各種メディアやWeb上でのこうした個人のコメントなど受け取られる内容には批判的な文章が多いように感じています。こうした批判を受けて、経営陣からは予想通りの弁明が聞こえてきそうです。「創業者の時代とは経済環境が違う」「米国のTech企業も黒字でリストラしている」といった言い訳です。しかし、仮にこれらの反論があったとしても、根本的な問題を理解していない盲目的な詭弁に過ぎないと思っています。なぜこれらの言い訳が成り立たないのか、データと事実に基づいて整理したいと思います。

「時代が違う」という安易な逃げ口上

創業者・松下幸之助が直面した過酷な時代

パナソニック経営陣は「創業者の時代と現在では経済環境が異なる」と主張するかもしれません。しかし仮にそのように主張した際は、それは現実を無視した発言であると思います。松下幸之助さんが経営者として活躍した時代を振り返ってみましょう。

1929年の世界大恐慌では、世界経済が壊滅的な打撃を受けました。この時、多くの企業が倒産し、失業率は急激に上昇しました。現在のパナソニックが直面している「困難」など、大恐慌時の混乱と比較すれば些細な問題に過ぎません。

第二次世界大戦とその後の復興期は、文字通り国家存亡の危機でした。終戦直後の日本は、インフラは破壊され、食料不足に喘ぎ、GHQによる統治下で企業活動も大幅に制限されました。現在の「デジタル変革」や「AI時代」などという課題が、戦争による全てを失った状況と比較できるでしょうか。

現代の恵まれた経営環境

一方、現在のパナソニックが置かれている環境を客観視してみましょう。営業利益4,000億円超の黒字企業が「厳しい環境」を理由にリストラを実行するという状況は、松下幸之助さんの時代から見れば夢のような好条件だと思います。

現代の経営者は、松下幸之助さんが持ち得なかった様々なツールを利用できます。高度な情報システム、グローバルな資本市場、多様な金融商品、そして何より平和で安定した社会基盤です。これだけの恵まれた条件下で「困難」を理由に従業員を切り捨てるのは、単なる経営能力の欠如を露呈しているに過ぎません。

米国Tech企業との安易な比較の誤謬

Tech企業リストラの本質的違い

確かに、2024年から2025年にかけて米国Tech企業では大規模なリストラが実行されています。Metaの3,600人削減、Googleの継続的人員削減、Microsoftの6,000人削減など、一見するとパナソニックと同様の動きに見えるかもしれません。

しかし、これらの企業とパナソニックには根本的な違いがあります。

AI投資のための戦略的リストラ vs 単純なコストカット

米国Tech企業の場合:

  • AI技術への大規模投資を目的とした戦略的人員再配置
  • 低パフォーマンス社員の選別(メタは管理職に12-15%の最下位評価を義務付け)
  • コロナ期の過剰採用の調整(2020-2022年の急激な人員増の是正)
  • 新技術領域への人材シフト(従来業務をAIで代替し、AI開発に人材を集中)

パナソニックの場合:

  • 明確な成長戦略の欠如
  • 30年間の成長停滞の帳尻合わせ
  • 販管費率25.6%という非効率経営の隠蔽
  • 創造的破壊ではなく単純な削減

投資規模と収益性の圧倒的格差

米国Tech企業は確かにリストラを実行していますが、同時にAI分野への兆円規模の投資を継続しています。Metaは2024年だけでAI投資に約4兆円、Googleも同様の規模の投資を実行しています。これは「攻めのリストラ」と呼ぶべきものです。

一方、パナソニックはどうでしょうか。8,500億円でBlue Yonder社を買収したものの、その後の成長戦略は曖昧で、結果的に重荷となっています。これは「守りのリストラ」、いや正確には「敗北のリストラ」と言うべきでしょうか。

収益性の根本的違い

主要Tech企業の営業利益率(2024年):

  • Apple:約30%
  • Meta:約35%
  • Google(アルファベット):約25%
  • Microsoft:約40%

パナソニックの営業利益率:

  • 2024年度:5.0%
  • 同業他社(SONY):約10%
  • 同業他社(日立):約8%

この数字を見れば明らかです。米国Tech企業は圧倒的な収益性を維持しながら戦略的リストラを実行しているのに対し、パナソニックは低収益に喘ぎながらコストカットに頼っているのです。

データが示すパナソニックの相対的劣位

競合他社との収益性比較

楠見社長自身が認めている通り、パナソニックの販管費率25.6%は同業他社を大幅に上回っています。

販管費率比較(2025年3月期):

  • パナソニック:25.6%
  • SONY:18.8%
  • 日立:18.9%

この7ポイントの差は、経営効率の致命的な劣位を示しています。同じ売上を上げるのに、競合他社より7%も多くのコストがかかっているということです。人員が溢れている、というのではなく、生産性乏しい社員の活用ができていない、事業の成長ができていないといえます。

ROE目標の未達が示す経営力不足

パナソニックは2022-2024年の中期計画でROE 10%以上を目標として掲げましたが、実際の達成率は:

  • 2024年度実績:約7.6%
  • 目標との乖離:-2.4%

一方、ソニーのROE(2024年度)は約13%、**日立も約11%**を達成しています。これは明らかに経営陣の戦略立案・実行能力の不足を示していると考えられます。

「不易流行」の本質を理解しない経営陣

松下幸之助さんの「不易流行」理念

松下幸之助さんは「不易流行」という概念を重視していました。変えてはならない本質(不易)と、時代に応じて変えるべきもの(流行)を見極める重要性を説いたのです。

変えてはならないもの(不易):

  • 人を大切にする経営
  • 企業の社会的責任
  • 従業員への使命感の提供
  • 顧客第一主義

時代に応じて変えるべきもの(流行):

  • 技術・製品
  • 販売手法
  • 組織構造
  • 事業領域

現在のパナソニック経営陣は、この「不易流行」を完全に逆転させています。変えてはならない人材重視の理念を捨て、変えるべき非効率な組織運営を温存しているのです。

真の変革とは何か

米国Tech企業が実行しているのは、まさに「流行」の部分の大胆な変革です。AI時代に対応した組織再編、新技術への大規模投資、旧来の業務プロセスの抜本的見直し。これらは時代の変化に対応した正当な「変革」と言えます。

しかし、パナソニックが行っているのは「変革」ではなく「劣化」ではないでしょうか。創業理念という「不易」の部分を破壊し、非効率な経営という「流行」で変えるべき部分を放置している。これでは企業の根幹が腐敗するのも当然です。一時的な帳簿上の数値は良化するでしょう、4年前の1000人規模の早期退職募集時と同様に、一般的には優秀な人はそのタイミングで追加される退職金等を多く受領し、さっそと別会社に転職できるスキルを有している方、他社でも活躍できる方がどんどん辞めていくことでしょう。

就職氷河期世代から見た経営者の責任

無責任な経営の連鎖

私は就職氷河期世代として、この種の「言い訳経営」には強い憤りを感じています。バブル崩壊以降、多くの経営者が外部環境を理由に従業員を犠牲にしてきました。「グローバル化」「IT革命」「金融危機」「デジタル変革」…理由は常に変わりますが、手法は同じです。

本当に優秀な経営者なら、どのような環境変化であっても人員削減に頼らない成長戦略を描くはずです。それができない者は、経営者として不適格だと思っています。とりわけ日本を代表する経営者の一人、松下幸之助さんが創業した会社ならなおさらです。

時代を超越した経営の本質

松下幸之助さんの偉大さは、時代を超越した経営の本質を理解していた点にあります。だから海外でも経営者というよりかは哲学者としても紹介されるケースがあります。どのような外部環境であっても、人を大切にし、顧客に価値を提供し、社会に貢献する企業は必ず成長できる。この普遍的な原則を貫いたからこそ、大恐慌も戦争も乗り越えることができたと思っています。

現代の経営者に欠けているのは、この「普遍的原則への信念」ではないでしょうか。表面的な手法論に惑わされ、経営の本質を見失っていると思うのです。過去のリストラが状況変わらず、数年経つと舌の根も乾かぬうちに、すぐに「構造改革」などと言い始めて、リストラと事業譲渡、といった1パターン化した経営は今後も継続されるのでしょうか。

津賀前会長時代からの「お友達人事」による組織腐敗

10年近く居座る役員陣の責任

パナソニックの現在の惨状は、現在社長を務める楠見氏だけの問題ではありません。津賀一宏前会長(現在は退任)時代から続く「お友達人事」による組織の自浄作用欠如こそが根本原因だと思っています。

現在の経営陣を見渡すと、10年近く同じポジションに居座り続ける役員が数多く存在します。これらの人物は津賀時代の失敗にも責任を負いながら、何の責任も取らずに地位を保持し続けています。上場している株式会社ですから、人選が1人の勝手な匙加減で決まるものではないにしろ、あまりにも粗末であり、無責任だと思っています。

構造改革の欺瞞性

楠見社長は「構造改革」を声高に叫んでいますが、最も構造改革が必要な経営陣自体には一切メスを入れていません。これは明らかな欺瞞ではないでしょうか。

真の構造改革とは:

  • 無能な経営陣の刷新
  • 新しい視点を持つ外部人材の登用
  • 過去の失敗に対する明確な責任追及
  • 組織風土の抜本的変革

しかし、パナソニックが実行しているのは結果が出せない経営陣温存・従業員切り捨てという最も安易で無責任な手法です。楠見政権発足から3年が経過しても、主力事業会社のトップは全て津賀政権を支えた側近が占めており、役員人事は完全に膠着化しています。

内部昇格システムの弊害

パナソニックの経営陣は、ほぼ全員が内部昇格組で占められているように思えます(コネクト社の樋口社長は出戻りで、他の経営者とは異なるのが救いです)これは一見すると「生え抜き重視」に見えますが、実際は既得権益の保護システムに過ぎません。

問題だと感じるのは、楠見氏と津賀氏の関係が示すように、個人的な関係性が人事を左右しているのではないか、という疑念があります。津賀氏(1979年入社)と楠見氏(1989年入社)は10年の入社年次差がありながら、以下のような密接な関係を築いています:

異常な個人的関係の実態:

  • 入社後、同じ研究所で津賀氏の指導を受ける
  • 楠見氏のテレビ開発での成果を津賀氏が高く評価
  • 津賀氏が楠見氏を欧州R&Dセンター所長に抜擢
  • 楠見氏の結婚式で津賀氏が仲人スピーチを担当
  • 津賀氏が社長時代に楠見氏を「事業の思考停止を防ぐカンフル剤」として重用

これは明らかに師弟関係を超えた異常な個人的結びつきとも捉えられるのではないでしょうか。人事において組織の私物化と言われても仕方ありません。それで結果が出ていればともかく出ていない。

お友達人事の弊害:

  • 批判的視点の欠如
  • 過去の失敗への責任追及回避
  • 新しいアイデアや手法への拒絶反応
  • 組織内政治の優先

これでは、どれだけ外部環境が変化しても、組織内部から変革が生まれることはありません。

津賀時代の失敗を隠蔽する現経営陣

津賀前会長時代の主な失敗を振り返ってみましょう:

津賀時代(2012-2022年)の主要失敗:

  • テスラとの車載電池事業での迷走
  • 家電事業の競争力低下継続
  • 三洋電機統合の混乱長期化
  • デジタル変革の遅れ
  • 収益性改善の失敗

これらの失敗に関与した役員の多くが、現在も要職に留まり続けています。楠見社長もその一人です。過去の失敗を総括せず、責任を明確にしないまま、新たな「改革」を語る資格はありません

結論:言い訳は経営者失格の証明

真のリーダーに言い訳はない

真のリーダーは困難な状況でこそその真価を発揮します。松下幸之助さんは大恐慌の際、「物価の半額で良品をお客様に提供する」という「半値挙作戦」を敢行し、不況を逆手に取って市場シェアを拡大しました。これが真の経営者の姿勢であると思います。

楠見社長の「30年間成長できていない」「同業他社より販管費が高い」「ROE目標未達」といった発言は、自らの無能を宣言しているようなものです。このような評論はどうでもよいのです。しかし、この責任は楠見社長だけにあるのではありません。津賀時代から続く経営陣全体が共同責任を負うべきです。

真の改革とは

本当に必要な改革は、従業員の削減ではなく経営陣の総入れ替えです。30年間も低迷を続け、創業理念を踏みにじる経営陣、そして津賀時代の失敗を隠蔽し続ける現在の役員陣こそが、パナソニック最大の不良債権なのです。

今すぐ実行すべき真の構造改革:

  • 津賀時代から続く役員の一掃
  • 外部からの新経営陣の招聘
  • 過去10年の経営判断への責任追及
  • 組織風土の抜本的見直し

「時代が違う」「他社もやっている」という言い訳は仮定に基づいた部分ですが、経営者は自らの責任を明確にすべきです。そして、それは楠見社長だけでなく、津賀時代から居座り続ける全ての役員に当てはまります。松下幸之助さんが現在の状況を見たら、間違いなく「経営者失格」の烙印を押すでしょう。

創業者の理念に立ち返り、人を大切にする経営を取り戻すまで、パナソニックの迷走は続くと考えています。そして、その迷走の責任は、言い訳に終始する無能な経営陣と、お友達人事で組織の自浄作用を阻害し続ける既得権益集団にあると思っています。

真の再生のためには、従業員ではなく経営陣にメスを入れることから始めるべきです。それができない限り、パナソニックは創業者の理念を冒涜し続けることになるでしょう。

最後に

その人の息がかかった人事や人選などは、●●株や●●チルドレンなどと呼ばれます。本来実績や経営能力で選ばれるべき要職ポジションが、そうでないような気がしています。

経営者として世間から後ろ指刺されることもなく、従業員の雇用をまもり、目標を達成していればまだしも、全く達成できず、従業員の雇用も維持できず、「反転攻勢」やら「構造改革」だのいつものビッグワードばかりで、実が全く伴わない経営陣は早期退陣すべきだと思います。今の経営陣は最終的には株主総会で承認を得てそのポジションに座っているわけですが、リストラされる従業員側からすれば、糾弾されるべき存在でしょうね。

株主に対しては、過去5年振り返っていると、2021年3月期:が20円だったのに対して、2025年3月期: 40円(予想)となっています。2025年3月期の配当性向は30.6%と目標水準内で推移しています。普通の会社になることを目標としていた前社長の都賀氏の言葉通り、株式会社としてしっかり株主へ増配しています。

従業員をリストラしてまで増配する必要はあるのだろうか、という疑問は残るものの、今後のパナソニックが成長するのかシュリンクするのか、はたまたこれまで通り数年毎のリストラや自らの経営の経営能力不足により自らで事業の立て直しができず、人員の再配置もできないがゆえの事業譲渡が続くのか、気になるところです。

最後まで読んでいただき、ありがとございました。

少し前の記事ですが、こちらも参考にしてください。ひたすら事業を切り売りしてきた過去の経緯です。

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